紹介 ネアンデルタール人は私たちと交配した

 

 ネアンデルタール人のゲノム解析でノーベル賞を受賞したペーボの著書。2015年の著書なので今はさらに進展していることだろう。

 もともとエジプト考古学に興味があったそうだが、その進展のなさに失望して医学の道に進み、そこから古代人のゲノムを復元する方向にシフトした経緯が赤裸々に記されている。当初はPCRはなくバクテリアにDNA断片を取り込ませて増幅させるところからスタートした研究生活だったが、最終的には次世代シーケンサーを駆使して細かい推定をするようになった経緯が書かれており、その感動を追体験できる。そうして最終的にはネアンデルタール人と現代人が中東で交配した形跡を見つけ出すのだ。最終章では、デニソワ人とメラネシア人との交配についても記入され、交配がいたるところで起きて遺伝子流動が起きていたことを物語る。つまり、我々のゲノムは絶滅した複数の人類のものが二次的に混合したパッチワークともいえるだろう。

 さて、わたしが驚いたのはペーボの行動力と変わり身の早さである。考古学の歩みが遅すぎると見るや医学生に転身し、そのラボでミイラの研究をするという破天荒ぶりである。また、ラボで契約している企業の技術では研究の歩みが遅いと見るや、(それまではほめちぎって交流していたのに)別の会社にサクッと変えるというドライさである。また、意外にもけっこう毒舌である。「彼は家柄とオックスフォード卒という学歴から、傲慢な俗物ではないかと心配した」だの、「学会に行ったところでどうせ高名な老学者たちの侃々諤々の議論を聞かされるだけだろう」だの、「私の発表が聴衆をひきつけたから、彼(次の発表者)は大変だろうな、と少々優越感を覚えていた」だの、ものすごい自信である。

 あとは、投稿する雑誌についてサイエンスかネイチャーで迷ってサイエンスにした、とかサラリと書いてある箇所が至るところにあって感覚が麻痺しそうになる。編集部への根回しやアプローチも赤裸々である。

 

 いやはや、帯にはおだやかな微笑みをたたえる初老の紳士が写っているが、イメージと違ってかなり濃厚な体験を重ねてきた人物だということがわかった。ノーベル賞をとるような人はかくあらん、という感じである。