紹介 昆虫の交尾は味わい深い…。

 

昆虫のペニスへの偏愛が感じられる本である。まさに昆虫【交尾】博士である。内容は理知的なもので、多くの昆虫で交尾にまつわる新発見を写真とともに淡々と述べているが、誰にでも真似できるものではないことは容易に想像がつく。相当な試行錯誤がないとこのようなきれいなデータにはならないだろう。本書に登場するYさんと著者が交尾の話で盛り上がる様子が目に浮かぶ。本書を読んで改めてペニスが熱いことを再確認した。変な意味でなく。

 著者が助教時代にハダニの挿入器(aedeagus)の多様性にも関心を寄せていたが、さすがに体サイズが小さすぎるということで実験材料に採用されなかった。確かにハダニの外見は専門家でも間違えるほどお互いに非常によく似ているのに、aedeagusの形はカーブしていたり異常に長かったり、あるいはほとんどなくて分類屋泣かせのものがいたりと多様性に富んでいる。本書で指摘されるように、挿入器(あるいは交尾器)が同定形質になっている虫は多いのだが、本書で書かれていることはダニ類でもいずれ解き明かされていくものと願いたい。