紹介 コーヒーの科学

 

植物学、含有成分、トレードの歴史、ドリップ方式といった、コーヒーのすべての分野を網羅する意欲的な本である。マニアックな知識にクラクラしながら読み進めたが、あまりに微に入り細に入り書かれているので読み疲れたことは否めない。喫茶店のマスターのように、もともとコーヒー愛好家で知識がある人がよりコーヒーを深く知るために手に取るべき本だろうと思う。個人的には内容が濃すぎるので(コーヒーだけに?)分冊にしたほうがよかったのではなかと思った。

 では得るものはなかったかと言われるともちろんそんなことはなく、第1章から第3章でコーヒーの基本的な知識を整理しており興味が持てた。また、品種や豆の構造など植物学的な知見や、コーヒーと世界史のつながり(イエメンからの栽培の流れ)は端的にして興味深い内容だった。コーヒーさび病の発生と世界経済がつながっていることも面白かった。

 一方、焙煎中の化学変化についてはまったくといっていいほどついていけず、読み下すのに苦労した。この部分は辞書的に使うしかない。ただし、焙煎中に相当複雑な反応が絡み合って進行していることはよく理解できた。これだけ微妙な反応なら焙煎する人の腕一つでテイストが変わるのもうなずける。

 著者は現役の医学者ということで、文章もうまく、出典も明記されている点はよかった。ただし、もう少しユーモアがあればマニア以外にも読みやすかったかと思う。