紹介 そもそも島に進化あり

 

 筆者は鳥類学者ということで、島しょ部での鳥の進化に期待して購入してみた。一読した感想は・・・ちょっと期待したものとは違うかな。このタイトルだと正当な島嶼生物学を想像するのだが、むしろその記述は少なく、筆者の趣味が全面に出たエッセイの色が濃い。筆者自身の研究を知りたかったのだが、その点は少し肩透かしの感があった。また、例えが突飛すぎてついていけないことがある。たとえば固有種の形成過程について座敷わらしと河童を例にしているのだが、このあたりはどー考えても普通の種で説明したほうがわかりやすい。

 これを言うのは憚られるが、1ページに3つぐらいあるギャグが盛大に滑り散らかしているように思う。そのため内容は常識的なことを言っているにもかかわらず、全体的に読みにくくなっているのが残念だ。最後では保全について考えさせられることを言っているのだが、なぜガンダムのザクやスター・ウォーズのライトセーバーの脚注が必要なのかわからない。集中力が削がれるから真面目なところでは真面目になりましょうよ。

 とはいえ島への思い入れは伝わったし、島がマクロからミクロのスケールで身の回りの至るところにあるという考えは共感できる(私の住む高知も、俗に「陸の孤島」と呼ばれ交流の制限から古くから独自の文化が育まれてきたところである)。植物の葉に寄生するダニを観察していると島のイメージはよく感じる。飛翔性のチョウやガにとって隣の植物は同じ場所に生えているが、ダニにとっては現在地から遠く離れた島である*1。同じ生物でも分散範囲は進化を考える上で大事であると思う。

 細かいことだが、「生物学での進化とは、個体に帰属する現象ではない。あくまでも集団が単位となる」(p.122)との表現はいただけない。前後の文脈から個体レベルの成長のことを進化とは呼ばないということはわかるが、ナイーブな群淘汰を連想させるものであるから啓蒙書という性質からみても注意してほしかった。

 まずはこの文体が合うか合わないかが評価の分かれ目となるだろう。Amazonでは好意的であるので、こういうのもいいのかな。

*1:この考えはLevins(1968)のcoarse-grainedとかfine-grained environment に相当するだろう