紹介 フォン・ノイマンの哲学

 

 この本はノイマンの理論は最小限に、彼の社会とのつながりや人間関係、政治的活躍に焦点をあてた(ややゴシップめいた話も多い)読みやすい新書であり、WWIIや冷戦時代の研究背景がわかる好著となっている。

 エルデシュやゲーデルのように天才はしばしば孤立するものだが、ノイマンは卓越した少年時代から決してそうならないように上手に振る舞っており、学校でも集団から浮き立つようなことはなかったという。もともとの生まれが商売で成功した裕福なユダヤ人一家だったというバックグラウンドがなせる技かもしれない。なお、祖父も8ケタの掛け算を暗算できたそうで、ノイマンの才能には血筋もあるのだろう。

 祖国ハンガリーを捨てた経緯も書かれているが、ベルリンに進学した多感な頃に、ナチスが英雄的存在であり、ノイマンも尊敬しただろう化学者ハーバーをユダヤ人という理由で追放したということが影響しているらしい。後年の彼の(映画「博士の異常な愛情」で茶化されたような)ソ連嫌いは、少し鬱屈した愛国心に原因があるのではないかと著者は推測している。

 あまたの分野に業績を残したが、生物と一番関係するのはゲーム理論だろう。彼はゼロサムゲームを定式化するなどの業績はあったが、パイオニア的な研究をしたあとはけっして一箇所にはとどまらなかったので、この分野の貢献は後世の研究者に委ねられた部分が多い。

 ナチスの台頭と前後して、上手にアメリカに渡り、プリンストンで研究室を構えるようになるが、この移住も時流を見定めるしたたかさが見える。アメリカは理想的な研究状況だったようで、運転免許もとって謳歌していたようだが、数学の考え事や、下手をしたら論文を読みながら運転したので事故率が尋常ではなかったらしい。それでも無事なほど、のどかな時代だった。

 コンピュータの開発への関与、原爆開発と投下計画、冷戦下のソ連への爆撃を勧めたことは有名であり語ることは多くないが、以外な人物との接点もあり飽きさせない内容となっている。

 読後の感想は、天才であったことはもちろん、社会の時流を見定めるに非常に聡かった人物、そして理論に合わないと見抜いたものに対してはなくてもいいという冷酷さも持った人物だったということだ。本書のあとがきで「ノイマンは・・・「科学者」や「研究者」の範疇にとどまらない「実践家」だった。」とあるが、これが一番よく私の感じたことと一致しているように思う。