紹介 ケーキの切れない非行少年たち

 

 過去のベストセラー。自分に直接関わらないことなので気楽に読みすすめることができた。罪を犯す少年が周囲の状況を正しく認知することができない障害を持っていることがよくあるという。その証拠を表紙にもあるような図として突きつけられると確かにインパクトがあり、その境遇に考えさせられるものがある。犯罪は許せないが、学校で認知が歪んでいる徴候を教師が把握していればなんとかなった事例もあったかもしれない。著者は自己評価の向上を目指す認知機能トレーニングを開発して普及につとめているという。

 印象に残ったのは「反省させること」や「褒める教育」に対する著者の批判的なスタンスである。まさか少年院とは一緒にできまいが、私も学生指導の中でやる気があるのに研究を組み立てることができない学生が一定数いることを実感している。それも学業は優秀なのにである。「能力不足」や「研究に不向き」とばっさり切り捨てればいいのかもしれないが、なにがわからないのか聞いても答えてもらえず、ついキツい口調で「反省」させていたときが多かったように思う。また、なかなかやる気が出ない学生には「褒めて伸ばす」ことを試すこともあるが、実際は逆効果かもしれない(よく理解できない実験を成功させて褒められてもうれしくはないだろう)。

 そういうわけで、自分にひきつけて考えると、相手を考えているつもりで色々足りない部分はあると思う。ではどうしたら研究の基礎的な部分や面白さを知ってもらえるのか、まだ悩む日が続きそうである。いろいろな引き出しを持つようにはなりたいが、それは簡単ではない。