書評(文化昆虫学の教科書)

最近ツイッターに移行しているので、こちらがお留守になってすみません。

 八坂書房らしく、ひとひねり、ふたひねりくらい入った本である。教科書と銘打っておきながら、実際の中身は偏愛に満ちたサブカル本の一種である。長い引用文献リストがあるが、たぶん誰も参照していないと思う。というか、はっきり言ってくだらない引用もけっこうある。本文の内容は古典和歌、神話、アニメ、ラノベ、特撮と昆虫の関係についての話題が多い。話は濃厚であるが、深堀りはしていないので読みすすめるのに困難は感じない。一方で、たとえば実写映画については興味が薄いと見える。クモの章でそれは端的に現れる。クモといえば、私はゲイリー・オールドマンの映画『蜘蛛女』を思い出すし、もっと有名なところでは『蜘蛛女のキス』(こちらは見ていない)があるがこれらには触れられていない。なお、初代駐日大使ハリスがアシダカグモに悩まされたエピソードは共感できる。私もあの生物だけは本当に苦手である。この章の後半では怒涛のアニメ・ラノベのラッシュとなるので、著者はそれがいいたいだけだろう。

 たぶん間違いなく、この本は売れるとは思って書いてはいないはず。ただ自分の趣味を開陳するのが楽しいから書いたということが伝わってくる。この点は実にいいと思う。それで結論としては、著者はものすごい博学であることはわかったが、必読書であるかどうかは正直微妙だと思った。

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久々の新作