書評:かがみの孤城

 

 私にとって久々の長編小説。学校での居場所をなくした子供たちが、部屋の鏡を通って秘密の城に通うようになり交流を深める。この城が開かれているのは3月までで、閉城のときにはみんなの記憶が失われる。読み始めは、この陳腐なモチーフと若すぎる登場人物に感情移入できずに不安を覚えていたが、終幕が近くなるにつれて一気にスピード感が増し、最後のどんでん返しはさすがに作家の面目躍如だと思った。本屋大賞はあまり信用していないが、本作はまずまずだったと思う。

 

【以下ネタバレを含む】

 

 引きこもりの主人公(こころ)の成長がテーマかと思ったが、実のところは謎解き要素の強い小説だというところが斬新だった。しかも、本当に成長したのはこころではなかった。いわば、彼女は語り部としての役割にすぎないのかもしれない。いくつかの「トリック」について、時間軸がずれていることは小説に慣れた読者なら早い段階で気づくだろう。これはファンタジー要素だからいいとしても、アキ=喜多嶋には無理を感じる。はどうするんだ。いくら年をとってもさすがに現実世界で面談までしたらわかるぞ(・・・あれ、こいつアキじゃね?って)。あと、最後に例えばフウカが城に残ったら、救われるのはフウカだったのかなとか。一人でみんなを振り回しておいて、自分だけ優遇されすぎてないか。

 というか、こころの敵役の真田さんとその取り巻きはどこへ行った。なんかクラス替えで都合よくFOしたのか。「引きこもっていたけど、いつのまにかクラス替えがうまく行ってすっきり。イヤなやつもいなくなったし、学校も一人で通えそう。男の子があいさつしてくれてちょっとドキドキな新学期のヨカン☆」とか感じてしまうのはちょっと妄想がすぎるか。