南方熊楠

 

 南方熊楠の活動は幅広く、どんな本を読んでもとらえどころのない印象だったが、この本を読んでだいぶ整理された気がする。かなりいろいろな資料が詰め込まれている。とくに彼の性的嗜好についての考察はこれまで読んだことのないものだった。男性器と女性器のスケッチは以前図版で見たことがあるが、このような性癖が過去の男性との交流に端を発してるというのは興味深い。まあ下品は下品であるので、官僚あがりで真面目な柳田国男と最終的に合わなかったというのはうなずける。

 印象に残ったのは、西欧のように物事を外部から俯瞰するのではなく、自身が万物と一体化するという彼のアプローチである。これはなかなか凡人には理解しがたいところではあるが、そのように感じられるとしたら人生観も変わるだろうか。かの有名な南方曼荼羅は全く私の理解を超えているが、ロンドン時代はオカルティズムに対して嘲笑的だったというのは意外だった。本の中でいろいろと考察がされているが、いまとなっては知る由もない。

 この本は決して読みやすくはなかった(とくにオカルトの章)。それは文章が悪いわけではなく、彼の生き方に共感できるところが少なかったからである。また、現代に至っては彼の仕事の学術的価値もそれほど高くないと言ってよいだろう(しがらみの多い大学に失望し市民研究にとどまった)。にもかかわらず、彼の異常なほどの知識欲と生物を育む森を守る活動が独自の世界観を作り上げ、後世に大きな影響を与えているのは驚きである。