紹介 魚毒植物

 

魚毒植物

魚毒植物

Amazon

 毒を水に流して魚を取る漁法がある。かつては全国にあったらしいが、無差別に水圏生物を殺すので現代では禁止となっている。この本は琉球列島を中心にリサーチしてどのような植物がどのように魚毒に利用されていたかを調べた本で、民俗学的に興味深いものだった。この漁法をアクティブにされていた方々とお話できたのは本当にギリギリのタイミングだっただろう。私はイジュ、ルリハコベ、デリスという植物はあまり馴染みがないが今後は注意したい。またアダンもかつては魚毒に使われていたということで、歴史に思いを馳せる。さらに魚毒は海でも使われたということも新鮮で、タイドプールにとり残された魚やタコを魚毒を沈めて取るというのはなるほど、物質がうまく拡散するので理にかなっているだろう。とった魚が変色しないようなtipsがあったそうだ。

 評価されるべきは日本で使われた植物を一覧にしていることで、文献リストもあり資料的な価値が高い。意外だったのは、普通は毒草として認識しない植物が魚毒として使われていたことである。たとえばサンショウ程度の毒で魚が取れるものだろうか。他にはイジュやエゴノキのサポニンが使われたようだ。これらに含まれる配糖体は界面活性剤の働きを持ち、かつては洗濯にも使われたという。たまたま、私の実験で使う野外植物がサポニン含有としてリストされており、意外なところで興味がつながった感じがする。なお、余談ながら文明の発明である青酸カリを海に流して魚を捕ったというが、これは全くいただけない。

 あとは、魚毒を得るために木本の移動が島の間で行われたのが意外だった。島の間での(今となっては意味を失った)植物の移動に人間が積極的に関与した例として興味深い。

 著者はゲッチョ先生こと盛口先生。生物スケッチの名手であり、この本にもふんだんに種々の植物図が登場し、その芸の細かさを見るだけでも一見の価値があるだろう。惜しむらくは植物名の索引がないところか。