紹介 性の進化史

 

 Y染色体の由来と退化について述べた本である。細胞遺伝学の知識がいるので読みこなすのが大変だったが興味深い内容だった。

 現代人は精子の数が激減しているという。進化を学ぶ者としては一夫一妻が一因であり(他者との精子競争がなくなった)、このような退化を生み出したという説について興味を持った。この説は自明なのだろうか。これは昆虫や他のモデル生物で検証できそうである(実際に一夫一妻と一夫多妻を選抜する実験はモデル生物でやられている)。

 また、現代では高齢出産の代替医療のためメスの体内で精子競争が起こる機会が少なくなり、能力の低い精子でも試験管で受精できてしまう。このことも精子の受精能力を減退させるという。こちらは私は要因としてあるような気がする。

 いずれにせよ、論文によって、また場所によって精子の減少傾向は違うので、いくつかの要因が関わっていることは間違いないだろう。

 背景として、精子の能力はY染色体に一部がコードされているので(25ページ)、精子競争がないならY染色体の精子に関与するリージョンにエラーがたまっていくということらしい。したがってY染色体が劣化すると述べているが、ここで言う劣化の意味が少し曖昧かもしれない。途中からY染色体がだんだん短くなって最後には消滅するという内容なので、まだ少し混乱している。

 本書の内容はきわめて多岐にわたるので、私の不完全な知識で紹介するのはやめたいと思うが、Y染色体の劣化(あるいは消失)ということがここまで大きなテーマであるということを知っただけでも有意義だった。

 最後に、やはりこの著者もというべきか、「種の保存のために」という信念の「インプリンティング」から抜け出ていないように感じる(59ページ)。「性の進化史」を執筆する生命の研究者でもこれなのだから、学生については仕方ないと言えるのかもしれない。216ページのエピジェネティック遺伝もメンデル遺伝と対立させて述べているように見えるが、進化論の範疇としてモデル化することは十分可能であろう。安易にラマルクの例えを持ち出さないほうがよかったように思う。