紹介 寄生虫を守りたい

 

寄生虫(とくに吸虫)への偏愛に満ちた本である。読みやすくてユーモアに溢れており、楽しそうな様子が伝わってくる。私は冬場に湖沼に集まったカモの観察を楽しんでほっこりするのだが、そのような光景を見てカモの糞便から貝類に移行する寄生虫にワクワクしたことはない(普通はそうだと思う)。たしかにそう考えると寄生虫ほどうまく他者を利用している生物はない。

 馴染みの深いアニサキスの標本の作り方も簡潔に書いてあるので(おすすめらしい)、今度魚をさばくときには消毒液を準備しておきたい。もちろん身は晩酌の肴になるだろう。

 正直なところ吸虫は気持ち悪いと思っていたが、この本を読んだ後では遊泳するセルカリアへの愛も芽生えるかもしれない。知らんけど。この本で紹介されている目黒寄生虫館は数年前に一度訪れた(確かマイルがたまっていたのだ)。意外とこぢんまりした建物だったがまた訪れたくなった。

 本書では鳥類に寄生するfeather mitesも言及されている。そういえばハダニは一応植物の寄生者であるが、あまり寄生という表現は使わないのはなぜだろう。『寄生虫進化生態学』によると、生態学者のPriceは植食者を寄生者に含めているそうだが。水圏の寄生虫に比べると形態的なダイナミズムに乏しいのは否めない。ハダニがホストによってグロテスクに変形したらもっと人気が出るのに、と惜しい気持ちになる。