紹介 統計分布を知れば世界が

今年も雑多な本の感想やらなんやらをボチボチ更新していきますので、どうかよろしくおねがいします。

 正規分布、べき乗則、対数正規についてコンパクトにまとまっている本である。とくに、対数正規分布を真面目に取り上げている本はあまりなかったような気がする。世の中の物事は乗算過程を経て決定されるものが多いのに、加算性(相加性)をもとにした正規分布をベースとするのはなぜなのか、そのおかしさについての問題提起は確かに新鮮味があった。積み上げグラフでべき乗則と対数正規のパターンが一目瞭然になる様も興味深いものであった。

 しかし、厳密な話を期待していた読者はやや肩透かしを食うかもしれない。身長は正規分布、体重は対数正規分布という話が最初に出てくるが、どうしてそうなるのかは物理学者の面目躍如という場面なのに、もう少し数式を使って説明してもよかったのではないだろうか。

 後半は筆者の社会哲学が全面に押し出されているが、これも経済的な裏付けについても数式をつけたほうがかえってわかりやすいような気がした。全体的に、これからおもしろくなりそうなところで「寸止め」を食らっている感じがした。

 そういうわけで、数式がほとんど出てこずに難易度は岩波ジュニア文庫でもいいくらいのもので、興味のある読者は比較的簡単に読むことができるだろう。今後のデータ解析について対数正規についてもう少し意識する必要がありそうであるし、私的な研究にもよいかもしれない。