紹介 招かれた天敵

 

 応用昆虫学の本でこれほど濃厚な本は読んだことがない。生物進化と生物多様性の観点から、生物的防除の有名な事例の背景と結果をじっくりと描いている。そのため、教科書の一覧表のような無味乾燥な内容ではなく、なぜそのような天敵導入がなされたのかについて時代背景を含めた全体像を把握することができる。

 レイチェル・カーソンの沈黙の春から始まり、ライリーのベダリアテントウ・プロジェクト、悪名高いイギリスのジャパニーズ・ノットウィード(イタドリ)、マングースの導入、染料をとるためのコチニールカイガラムシとウチワサボテンの導入(日本にも小笠原に導入)、さとうきび畑へのオオヒキガエルの導入、そしてそれらの野生化の影響が存分に語られる。また、それらの知見がニコルソン・ベイリーの差分型モデルにどうつながっていったのかを理解することができる。

 最終章である小笠原の固有マイマイを食い尽くすヤリガタウズムシの話は読者をディストピアに叩き落とすだろう。まるで嫌な結末のミステリーを読んでいるかのようだ。固有種の再生への物語が語られるが、それでも重苦しい読後感を残す。

 管理された害虫防除を目指して、近年は古典的な害虫防除へ回帰する様はなんとも無情である。自然界を理解しようとする研究の敗北とも受け取れる。それでも私達は考え続けていかなくてはいけない。大してききめのない天敵を規制せず分布拡大を許して固有種を大量絶滅させるプロセスは、思考停止の愚かさをまざまざと見せつける。

 生物を導入して害虫を防除する「生物的防除」が果たして「自然にやさしい」のかを——正直に言えば自分もそのような説明を安易に行うことがあるが——深く考えさせられる名著であり、天敵に関心を持つ者であれば必ず読むべき本である。