紹介 キツネを飼いならす

キツネを飼いならす:知られざる生物学者と驚くべき家畜化実験の物語

あらすじ:

イヌ科のうち家畜化されたのはイヌだけではなく、キツネもそうである。人為的に家畜化する試みは、ルイセンコの悪夢の時代を生き延びたベリャーエフが推進した(兄は粛清を逃れられなかった)。すでにある程度の実績をあげていた彼は、シベリアの凍える大地にある研究拠点でキツネの人為選抜を推進した。彼に協力した著者リュドミラはキツネを選抜することに成功した。キツネに訪れた変化はイヌのそれと酷似していた。人間に尻尾を振り、おもちゃをくわえて遊び、耳は垂れ、鼻は短くなった。繁殖期も野生からずれていった。驚くべきことに、こうした性質の一部は10世代もしないうちに現れた。著者の献身と詳細な記録のおかげで、この変化は科学的に大きなインパクトを残した。

 彼はホルモンが分泌されるタイミングが家畜化のプロセスに重要だと考えていた(ネオテニーによる家畜化?)。それを検証するための逆方向の選抜が気が重い仕事だったことは容易に想像できる。飼育員は野生より攻撃的にする選抜をやりたがらなかったが、なんとか人を恐れる系統も作ることができた。ホルモンが関与していることは明らかになった。

 彼は1985年に死んだ。直後のペレストロイカで国内の食料事情はめちゃくちゃになり、彼らが育てた多くのキツネは餓死した。彼の死後、次世代シーケンサーによるゲノム解析でイヌと同様の遺伝子の変化が多数発見されている。

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