同所的種分化の引き金とされているホストレース(寄主系統)について改めて調べていた。雑にメモする。(pp. 157-166)
ホストレースは植食性昆虫で見られて、それぞれ異なる寄主に生息する。系統間には適度な遺伝子流動があるので、完全な種とはみなされない。だけど、同所的でホスト利用が違うからってsympatric speciationの証拠だというのは油断だ。基準がある。
・分布が重なっている
・違うホストを使う
・姉妹群である
・生殖的隔離はかなりあるが、完全ではない。
・異なる系統内で同類交配する
・それぞれのホストに遺伝的に適応している(行動の選好性、産卵選好性、生存率など)
・お互いのホストに移植したらダメになる。
それに加えて、同所的種分化だといいたいなら
・異所的種分化はありそうもない
ってことを示せ。
いや、わかってる。難しいよな。言っておくが、別々のグループの結果を寄せ集めてもだめだぞ。もっといい方法がある。1つの分類群の中でも(ホスト間で)さまざまな段階の生殖隔離があるという報告がある。この筆者は同所的種分化の証拠だといっている。面白い。でもやっぱりだめだ。このようなパターンは異所的種分化でも生じる。たとえば部分的な生殖隔離は、もともと異所的に隔離していた集団が融合しつつあるだけかもしれない。結局、種分化にいたった例はほとんどない。
サンザシミバエの例は有名だ。わたしの示した条件を満足しているようだ。よく見てみよう。・・・(中略3頁)・・・ やっぱりだめだ。別の場所で異所的な集団が多数生まれて、それらが二次的に入り込んできて、強化で生殖的隔離が強くなっているにすぎない。これは同所的種分化ではない。 allo-sympatric speciation とでも呼ぶべきだ。
つぎにアブラムシの例もみよう。・・・(中略)やっぱり異所性が排除できない。他の報告例も全部だめだ。
寄主特異的な種分化 (host-specific speciation、遺伝子流動がきわめて限られている)は半翅目やクサカゲロウで知られている。でも、これらのホストが氷河期に分布を拡大したことを考えると、今は同所的かもしれないが昔は異所的だったかもしれない。
結論:ホストレースが種分化につながったためしはない。一番有名なミバエの例でも、だめだ。
清々しい全否定である。そして、あまり上司にしたくないタイプではある。
まあ、たしかに条件が厳しいことはわかったのは収穫だった。帰ろう。