割烹

 

連休は昨日まで旅先にいた(コロナに関しては一応無難な土地であるはずだ)。宿ではマスクと消毒とソーシャルディスタンスが徹底されていて、社会的には常識なのかもしれないがかなり窮屈な思いがした。温泉と地酒を楽しんだが、どうも空きっ腹に酒というのがいけなかったようで夕方は寝込んでしまった。日頃の疲れもあっただろう。

その晩に寿司屋(割烹)の予約をしていたのだが、その時間になってもまだ調子がよくない。胃がムカムカする。

 

店に到着した頃には真っ青な顔で額に脂汗をかいていた。とはいえ、つきだしの刺身(いわし、たこ、さざえ、かんぱち、いか)の味に期待が高まった。これはなんとしてもメインの握りまで体調をキープしておかなくてはならない。ペース配分が勝負となりそうだ。

 

果たして次の皿は、

「豚肉の炒めものです」

オゥ、ここでなぜかギトギト脂肉。これは計算外だ。二口くらいで箸が止まる。

 

「卵焼きと牛すじでございます」

しょっぱい!量が多い!無理!数切れを食して残した。最後の握りにたどり着くまでできるだけ胃のスペースを空けておかなくてはならない。

 

「天ぷらでございます」

・・・うん、これはいける。カラッと揚がってうまい。

 

「お寿司と茶碗蒸しをお出ししますね。」

 

待ってました!この瞬間を待っていた。助かった。まだ腹が不安定だが、いまならなんとか入るレベルだ。なぜか無理に作り笑いをしてみる。

 

皿を持ったおばちゃんがやってくる。

 

「かんぴょう巻でございます。」

 

オゥ、ホワイ!!

 

心の中でなぜか英語で叫んでしまった。なぜにかんぴょう。いや、嫌いではないのだが、きときとの握り寿司を期待していたところに干瓢巻は精神的なショックがでかい。そこはせめて鉄火巻だろう。後で知ったのだが通はこれでシメるそうだが、そんなこと知る由もない。干瓢ばかり4本もほおばった。

 

最後の1本は虚ろな目をしてお茶で口に流し込む作業となった。胃酸が戻ってきたがそれはすでにどうでもよかった。どのみち楽しみにしていた握りは食べられないのだから。

 

部屋に帰ったら失意のままいつのまにか寝てしまった。

そして今日まで不調は続いたのである。