分断性比φ(.. )mメモより(専門ではないのであしからず;05.7.25修正)

 昨日のゼミはH助教授が担当だった。アリの分断性比についてのレビュー。(2005/6/26追記;この内容は『親子関係の進化生態学』[ ISBN:4832996517でも概説されている。)
 アリは半数倍数性で、娘どうしの血縁度は3/4、娘とオスの血縁度は1/2。娘と自分の子の血縁度は1/2。だからワーカー(働きアリ=娘)は妹の繁殖虫の生産を助ける(≒女王を助ける)のがベスト。もしワーカー(働きアリ=メス)が性比をコントロールできるなら、最適な投資性比はメス:オス=3:1。この話はTrivers & Hare[1]の有名な話である。
 だったら、どの巣も繁殖メス:オスを投資比3:1で生産するのか。実は、コロニー(巣)レベルでの繁殖虫の性比はかなりばらつく(分断する)[1]。オオズアリなどではあまり分断しないが[3]、むしろ例外的である。つまり、普通はオスばっかり作るコロニー、メスばっかり作るコロニー、そして両方を作るコロニーがあるのだ。アリではそれが一般的なのだ。なぜ?
 Boomsma & Grafen[2]のモデルでは、女王の交尾回数がコロニーごとにばらつくことに注目し、性比のESS解を解いた。女王が複数のオスと多数回交尾をする場合、ワーカーとメス繁殖虫の間の平均血縁度は下がる。したがって、ワーカーが繁殖虫の性比をコントロールできるなら、巣当たりの繁殖虫の性比が1回交尾の場合よりもオス側に少し偏ることは直感的にわかる。周囲のコロニーが同じ状態をとると考えた場合、ESS性比はオスばっかり・メスばっかりに分断するという。それを支持する実証例もある[4]。
 また、もう一つの重要な要因として、コロニーの資源量である。一般に、繁殖虫に投資した量が多い場合、コロニーレベルの性比はメスに偏っていく。すなわち、寄生蜂で見られるようなLRC(local resource competition)に似たような状況が起こるかもしれない。Kellerらの論文[5][7]では、血縁はほとんど問題ではなく、資源量が重要だと結論している。すなわち、資源量の多い多数回交尾のコロニーは、メスの繁殖虫ばっかり産出する。他に、血縁度の空間構造の問題もある[6]。
 昨日のレビューではこれまでの研究の問題点(生活史[時間構造]・空間構造の問題)を指摘し、今後の課題と研究計画について話をした。
 感想としては、この分野は本当にロジカルで問題点が整理されていることに感心する。これは「社会性の進化を解明する」という大目標があるからであろう。しかし、こんなにはっきりした大目標がない分野の研究者はどうすれば「面白い」と評価される研究になるのか?
 
References (chronological order)
1. Trivers, R. L., and H. Hare. 1976. Haplodiploidy and the evolution of the social insects. Science. 191:249-263.
2. Boomsma, J.J. & A. Grafen. 1990. ‘Intra-specific variation in ant sex ratios and the Trivers-Hare hypothesis’. Evolution, 44, 1026-1034.
3. Hasegawa, E. 1994. Sex allocation in the ant Colobopsis nipponicus (Wheeler): I. population sex ratio. Evolution 48:1121-1129.
4. Sundstrom, L. 1994. Sex ratio bias, relatedness asymmetry and queen mating frequency in ants. Nature 367: 266-268.
5. Brown, W.D. and L. Keller, 2000. Colony sex ratios vary with queen number but not relatedness asymmetry in the ant Formica exsecta. Proc. Roy. Soc. Lond. B. 267: 1751-1757.
6. Denis Fournier, Serge Aron and Michel C. Milinkovitch. 2002. Investigation of the population genetic structure and mating system in the ant Pheidole pallidula. Molecular Ecology 11: 1805-1814
7. Fournier D., Keller L., Passera L., Aron S. 2003. Colony sex ratios vary with breeding structure but not relatedness asymmetry in the facultatively polygynous ant Pheidole pallidula. Evolution 57: 1336-1342.