Influence of seasonal timing on thermal ecology and thermal reaction norm evolution in Wyeomyia smithii
G. J. RAGLAND & J. G. KINGSOLVER
J . EVOL. BIOL. 20 (2007) 2144–2153

 休眠を進化生態学するのは難しい。休眠に関する進化的な仮説というものは全くないわけではないのだが、ほとんどの場合、なにが仮説で、なにをもって証明されたとするかがはっきりしない。この論文もそのようなもののひとつだと思う。タイトルを直訳すると「季節的なタイミングが温度生態(?)と温度的な反応曲線の進化にあたえる影響」だが、イントロを読んでも、この論文の獲得目標がよく理解できなかった。
 ともあれ、やったことは理解できる。異なる気候(温度条件)に生息する幾つかの地域個体群のあいだで、飼育温度を変化させたときに発育日数がどう変わるか、その「変わり方」について比較したのである。(リアクションノルムという言葉がわかる人は、発育日数の温度に対するリアクションノルムの傾きが地域間でどう変化しているかについて分散分析の交互作用項で検出したといえばいいだろうか。余計ややこしいな)。著者はいろいろな形質でやっているが、はっきりした結論が出ているのは発育日数だけ。
 発育日数のリアクションノルムは高温に生息する個体群のほうが傾きがきつかった。言いかえれば、この虫を高温条件で飼育すると当然ながら発育日数は短くなるのだが、その「短くなりかた」が、高温条件に生息する個体群において強い!(ややこしや〜ややこしや〜)
 
 そして、以下の点がこの論文のひとつの大きなポイントらしい(意訳)。
 「休眠時期の地理的な違いによって、非休眠ステージが経験する温度条件がどの個体群でも似たところに落ち着くようになっている。(そういうふうに発育日数も進化している)」・・・ううむ、そこまで言っちゃいますか。「休眠時期の地理的な違い」のデータは本文にはないんだけどな(たぶん。読み飛ばしたところになければ)。
 
 リアクションノルムの進化、とくに温度に対するものについては最近多く目にする。このアプローチは面白いと思うが、その期待される「方向」について、理論的な予想(仮説)を考える時期にきていると思う。