月蝕

夜空にはきれいな満月が出ていた。
楽しみにしていた月蝕はなかなか始まらない。
かなり冷え込んできたので、風呂に入ることにした。

湯船に浸かっているとき、となりの棟の子供達がワアッと歓声をあげるのが聞こえた。
風呂場から外は見えない。

負けた!
完全なる敗北だ。
偉大なる発見、その興奮の一瞬を、あのご家族に許してしまったことを悟った。

ああ、残念だ。
その瞬間だけはひとりじめしたかった。
こんなことなら、欠け始める時刻を調べておけばよかった。
なんてこった。
いままで俺は・・・

ぼくは風呂場でいつまでもくよくよしていたのだ。