熱帯植物の開花は光周性が関与?

Photoperiodic induction of synchronous flowering near the Equator
Borchert R, Renner SS, Calle Z, et al.
Nature 433:627-629

 冷温帯の多くの植物の花芽形成が日長によって誘導されることはよく知られている。しかし、日長のほとんど変化しない熱帯の植物はどうなのだろう?
 熱帯の開花は二山型で、春と秋に多くの植物が一斉開花する。これは送受粉を容易にするべく進化したと考えられている。最近の研究によって、熱帯の植物の開花も日長のわずかな変化によって支配される場合があることがわかってきた。このような光周性の関与は、いままで思われてきたのよりも一般的なのかもしれない。熱帯の開花の多くは光周性に支配されているようなのだ。その証拠に、熱帯地方の開花時期の年次変動はほとんどない。
 たしかに他の気象要因が関与している場合もあるかもしれない。南米の収束帯の近くでは、はっきりした年二回の雨季があり、その直後に一斉開花が起こる。この地域では降水が開花を誘導しているようにも見える。しかし赤道直下では一年中多雨なのにもかかわらず、開花時期は毎年ぴったりそろっている。これは光周性なしには説明できない。
 しかし先も述べたように、日長は赤道直下ではほとんど変化しない。いったいどういうことだろう。鍵は日の出・日の入りの時刻にあった。たしかに日長はかわらない。しかし日の出・日の入りの時刻は、年に30分も変わる(地球の公転のせいらしい)。この日の出・日の入りの時刻の変化を植物が読みとっていると考えれば、開花のパターンがスムーズに説明できる。日の入りの時刻が長くなる時期(春分秋分のあたり)に、花芽形成が起こっているのだ。
 問題は、多くの植物が春分秋分の一方でしか花芽形成しなかったり、隔年で花を咲かせる種もあるということだ。他の要因もあるのだろう。また、同じ種でも、地域によって別のキューを使う例がある。ある種では高緯度では日長の変化で花芽形成をするが、赤道付近では降雨がシグナルとなるという。まだ解くべき謎は多そうだ。
 この論文は開花パターンと日の出・日の入り時刻との因果関係を提唱したもので、具体的な分子メカニズムを解明したものではない。概念を提唱した論文である。この研究が熱帯植物の生理学研究のブレイクスルーとなるのだろうか?