ナミハダニが subsocial だって?

以前、Twitterのタイムラインを遡ってみると、ナミハダニが亜社会性という記事があって目を疑った。いつからナミハダニは亜社会性と認定されたのかしらん?と思って論文を読んでみた。

Density and genetic relatedness increase dispersal distance in a subsocial organism
Bitume et al.
Ecology Letters, (2013) 16: 430-437

 最近のモデルで、密度が高いとき/血縁個体間の競争が強いときは分散距離を長くする遺伝子が有利になるが、その実証はない。ということで、やってみた。

 実験自体はだいたいこんなん。

1)24系統の近親交配系統を作る。*1
2)それぞれについて、マイクロサテライトの変異を調べておく。
3)2)の結果にもとづいて、近交系統どうしをうまく混合して、異なるレベルの親縁係数(kinship coefficient)の集団を作る。*2
4)実験:20枚の葉片を等間隔にパラフィルムで橋渡しして、一番端の葉片にハダニを異なる密度で導入する。
5)7日後に、端から何枚目の葉片まで分散したか、その距離を調べる。
6)独立変数を親縁係数*密度、従属変数を分散距離としてGLM。

(マイクロサテライトとか計算はともかく、生き虫の実験それ自体は、根気があればそれほど大変ではなさそうだ。)

 追加実験で、「親縁係数の効果なのか近親交配回避なのか?」という実験もやっている。実験はほぼ一緒だが、違うのは、近交系統単独(内交配)の場合と、それと親縁係数が同じくらいの集団を近交系統間で交配あるいは混合して作った場合で、分散距離に違いがあるか、という実験。

 結果としては、内交配の有無にかかわらず、親縁係数が高いほど分散距離が大きくなる。とくに、いくつかの個体がとくに激しく反応して遠くに移動して、分散距離の分布を歪めている。別実験で生活史形質に近交弱勢は見られなかったことから、著者はこれらの結果を近親交配回避ではなく、血縁者間の競争回避であると結論している。
(密度の効果も有意だが、こちらはとりたてて驚くことはないように思える。)

 血縁度の分散への効果をこれほど詳細に調べた例はないと思うので、たしかに評価されるべき論文だと思う。少々気になるのは、系統を作る際に分散性がどの程度inadvertentに落ちてしまうのかという点で、通常のように葉片にハダニを導入して世代を繰り返すと、分散力の強い個体は葉片から脱出して死んでしまい、分散力の低い個体しか残らない(これは論文ある)。筆者はここの手順はあまり詳しくは書いていない。
 あと、血縁個体間の競争が強い、というそもそもの大前提はナミハダニではどうかしら?そういうシーンがあまり思い浮かばないのだけど。まあここらへんはモデルを見てないのでなんともいえん。

 んにゃ。だけど、やっぱり subsocial というのは納得いかんな。この論文の中で、subsocialの引用は2010年の Le Goff et al. (2010; Behaviour, 147:1169) だけ。その中身も、

Parental care behaviours have never been described for T.
urticae
, but if we consider the web as a common living space for individuals
of the same generation, T. urticae could be so a communal species.
(太字は私)

って書いてあるから、subsocialを親による子の保護とかっていう意味で使っているんじゃないのかもしれないな。きっと。まあ、それはおいといて、こちらの論文も面白そうなのでいつかここにメモろう。


まあ、しかし。このタイトルが
Density and genetic relatedness increase dispersal distance in a spider mite
だったら、たぶん Ecol Let には載らなかっただろう。ということで、「戦略的」にうまくやっているような・・・なんかそういうモヤモヤしたものを感じたことは事実で。


PS 論文感想文は実にひさしぶりなので、また精進して書き残すように努力します。

*1:ただし、近親交配自体はそれほどシビアにはかけているわけではない

*2:多くの系統を混合すると、お互いの血縁が薄くなるとは限らないようだ