吉村さんの講義最終日:周期ゼミ

 アメリカには周期ゼミがいる。周期ゼミとは13年や17年のサイクルで大発生を繰り返すセミのことだ。私は知らなかったのだが、13年ゼミも17年ゼミもそれぞれ3つ程度の種の総称であり、それらの種は互いに地理的分布が異なっている。面白いことに、祖先種が3つあり、そのそれぞれから13年ゼミと17年ゼミが分化したらしい。(写真右は17年ゼミの一種、左はアブラゼミ
 
 なぜ13年や17年というサイクルなのか?これに関してよく知られているのは捕食回避の戦略だというもの。すなわち、一度に多く大発生するような性質は、捕食者がそれらを食べきれないことで有利になったために進化したという説である。もし捕食者が数年サイクルで大発生する場合、その大発生の年に出現してしまうと食べられやすいであろう。だから、捕食者の大発生となかなか同調しない素数年のサイクルが有利だったのではないかという説である。
 
 吉村さんの意見は違う。捕食圧は最後の最後の段階で周期のずれを維持する程度の役割しか果たしておらず、むしろ氷河期における雑種形成が周期形成に大きく関与したと考えている。

 氷河期が始まった時期に、気温が低くなったのでセミの発育期間(卵から成虫まで)が著しく延長した。また気温の低下によって幼虫死亡率も高くなり、全体的に低密度になったとしよう。低密度の条件では、「適切な」配偶者の探索が重要な選択圧になるだろう。
 
 いま、発育期間が15年〜18年のセミがいると考えよう。適当な初期条件から、これらのセミをシミュレーションで発生させて、異なる周期のセミが同時に発生する周期を計算する(簡単な最小公倍数の問題だ)。15・16・18年ゼミは他の周期ゼミと同時にでやすい。同時に出るとどうなるか。異なる周期のセミが交雑する(オスは相手のメスの周期がわからないから乱交)。するとその子孫の少なくとも一部はある年に低密度で出現するので、配偶者を見つけられない。だから周期の異なる種同士の交配はひどい損になり、このような交雑が繰り返されると絶滅に向かう。(この議論は「強化」による種分化の説明と似ている。)
 
 17年ゼミは他の種と同時に地上に出ることが少なかったので、同種と配偶する可能性が高かったので、長い期間の間にこの種だけ生き残った。
 やがて氷河期は終わったが、周期性自体は最初に述べた捕食回避の働きもあり、過去の遺物として残った。また、この説なら、周期ゼミの3系統は、氷河期の時期に独立に進化したものと説明できる。
 
 講義を聴いただけの印象では、つっこみどころは確かにある。最初に15から18年という根拠はどうだろう。また発育期間自体の変異は1年単位と仮定しているが、正しいかどうか。交雑子孫の出現パターンを量的遺伝的な相加モデルで組むのは根拠があるか。(日周活動など、生物活動の「周期」に関わる生理的・遺伝的メカニズムは実に奥深いようだ。ナマケなKatsuraはできるだけ避けようと思っている。)
 こうしたことは、これからこのセミや他のセミで検証できることだ。このモデルは従来の捕食説に対する有力な対抗仮説として重要とされ、国外でも広く認知されている。とくに地史を考慮に入れているのが重要なポイントだろう。

※講義を聴いただけで誤解があるかもしれません。正確には原著(下リンクの10)にあたってみてください。
http://www.sys.eng.shizuoka.ac.jp/~jin/works.html

紹介ページ
http://homepage2.nifty.com/saisho/Perio.Cic.html
http://www.mathforum.jp/mathmath/vol03/semi01.html

(2005.6.16 当初の表現を少し改変)

その他の講義内容
・ロトカ・ヴォルテラの競争排除は空間構造を考えればなりたたない。
 逆に、同じ増殖率を持つ種どうしでも排除が起こる。
    「教科書を無批判にうけいれるべきでない」

・科学の方法
 誤った前提に基づいた方法
  量子力学シュレディンガーの猫
  ビッグバン
  還元論
  教科書や先行研究をフォロー → 学界全体で誤った方向
    「自分で考えることが大切」 (この集中講義の結論?)