紹介 はずれ者が進化をつくる

 対象は中学生くらいだろうか。読破に時間はかからないだろう。
 雑草学者の観点から、個性や多様性の大切さを語る内容である。そして平均よりバラツキの大切さに心を向けることを説明している。こういうのは意外とない。さらには、区別や分類の本質的な無意味さにも言及しているところには好感が持てた。
 にもかかわらず、私としては全体としてあまり感心しなかった。大きくわけて二つ理由がある。まず、生物の知見をナイーブに人間社会にあてはめ、個性を大事にすべきだという安易な発想が随所に見られる。各章や節は生物の説明から始まるが、いつのまにか人間の価値判断の話にすり替わっている(例えばpp. 103-7)。
 さらに、知見が古い。p.96からガウゼを引き合いに出してナンバー1しか生き残れないという、進化生物学者ならギョッとするような説明がある(この説は大議論を巻き起こした)。それぞれのニッチで(君たちも)オンリーワンになればいいと述べられて脱力する。さらには、人間の利他行動をニッチで説明というか解釈をしているが、この部分は1930年代の総合説以前に退行したかのようである。*1
 と厳しいことを並べたが、鬱屈した大学人より子供は多様性の大切さのメッセージを素直に受け取るだろう。それだけに著書の知見を人間社会に当てはめるときには慎重になってもらいたい。

*1:追記: 現在一般的なハチンソンやマッカーサーのニッチ定義は50年代以降だが、それでも大差ないだろう