珍道中続く

 

アパートとは名ばかりの安宿でも、今どきwifiは快適に使える……が、なんと部屋に明かりがない。順番が逆だろ!

 

夏至近くで日の入りが20時半ごろとはいえ、これはつらい。なにも読めない。いくら個人主義の国とはいえ、光源も用意しておけというのはあんまりじゃないか。

 

これがアメリカというものか。みじめな気持ちで早々に寝床についた。

 

翌朝は時差ボケで4時に目が覚めた。昨日あまらせたサンドイッチをかじりながら、しばし日本の家族とショートメールを楽しんだ。ふと見ると、海外の安宿によくある天井の大きな扇風機から何やら金属製の短いヒモがぶらさがっている。引っ張ってみると、

 

煌々と明かりがつくじゃないか!

万歳!万歳!エジソンは偉大だ!

 

そりゃそうだわ。エジソンの国で電灯がないわけないわ。(このあと妻に爆笑された)

 

 

 

 大学はどこからどこまでが敷地なのかよくわからないくらい広い。敷地を彷徨ってダニ分類の実験室にたどり着くと、ひとりに一台、位相差顕微鏡(EclipseE200など)が割り当てられていた(結構たけーよ、これ)。20人くらい参加していたが、日本人は私だけだそうだ。先週の基礎コースから通っている猛者もいて驚いた。

 

今日はモラエス先生から中気門のダニ類(この分類法は古いのか)の毛の配置について教わった。なんとなくは知っていたが、改めて観察してみると不思議なものである。これらの毛が種間で相同なのかどうかが気になったが、ひさびさに時間を忘れて顕微鏡を覗くことができた。

 

惜しむらくは10年前に来るべきだったーーーそのときはオハイオだったはずだ。ここファイエットビルはなだらかな丘陵地帯で、みんなと一緒に歩いていても遅れてしまう。また、最近は日本語ですら詰まるようになったので英会話もスムーズにいかない。いや、これはもとからか。

 

帰り道。あれこれ考えているうちにみんなから遅れてしまい、自然と脚を止める。おそらくパブにでも行ったのだろう。もう歩かなくてもいいのだ。

疲れた。韓国料理レストランで素晴らしい値段の鍋焼きうどんを食べてアパートに帰り、昨夜と同じようにぐったりと床についた。

 

何時間寝ただろうか。共同のシャワーを浴びて、バルコニーに出てみると、味草むらになにやら光るものがある。

 

蛍だ。

 

アメリカにも蛍がいるのか。

 

草むらを鷹揚に飛び回っている様を、僕は口を半開きにしたまま目で追っていた。

くたびれた心に蛍は沁みる。

 

僕は部屋に戻り、バルコニーのドアを閉めた。

 

 

ファイエットビルに飛びます蛍かな

 

 

俳句の才能は全くないようである。

 

 

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