南方熊楠

 

 南方熊楠の活動は幅広く、どんな本を読んでもとらえどころのない印象だったが、この本を読んでだいぶ整理された気がする。かなりいろいろな資料が詰め込まれている。とくに彼の性的嗜好についての考察はこれまで読んだことのないものだった。男性器と女性器のスケッチは以前図版で見たことがあるが、このような性癖が過去の男性との交流に端を発してるというのは興味深い。まあ下品は下品であるので、官僚あがりで真面目な柳田国男と最終的に合わなかったというのはうなずける。

 印象に残ったのは、西欧のように物事を外部から俯瞰するのではなく、自身が万物と一体化するという彼のアプローチである。これはなかなか凡人には理解しがたいところではあるが、そのように感じられるとしたら人生観も変わるだろうか。かの有名な南方曼荼羅は全く私の理解を超えているが、ロンドン時代はオカルティズムに対して嘲笑的だったというのは意外だった。本の中でいろいろと考察がされているが、いまとなっては知る由もない。

 この本は決して読みやすくはなかった(とくにオカルトの章)。それは文章が悪いわけではなく、彼の生き方に共感できるところが少なかったからである。また、現代に至っては彼の仕事の学術的価値もそれほど高くないと言ってよいだろう(しがらみの多い大学に失望し市民研究にとどまった)。にもかかわらず、彼の異常なほどの知識欲と生物を育む森を守る活動が独自の世界観を作り上げ、後世に大きな影響を与えているのは驚きである。    

書評(文化昆虫学の教科書)

最近ツイッターに移行しているので、こちらがお留守になってすみません。

 八坂書房らしく、ひとひねり、ふたひねりくらい入った本である。教科書と銘打っておきながら、実際の中身は偏愛に満ちたサブカル本の一種である。長い引用文献リストがあるが、たぶん誰も参照していないと思う。というか、はっきり言ってくだらない引用もけっこうある。本文の内容は古典和歌、神話、アニメ、ラノベ、特撮と昆虫の関係についての話題が多い。話は濃厚であるが、深堀りはしていないので読みすすめるのに困難は感じない。一方で、たとえば実写映画については興味が薄いと見える。クモの章でそれは端的に現れる。クモといえば、私はゲイリー・オールドマンの映画『蜘蛛女』を思い出すし、もっと有名なところでは『蜘蛛女のキス』(こちらは見ていない)があるがこれらには触れられていない。なお、初代駐日大使ハリスがアシダカグモに悩まされたエピソードは共感できる。私もあの生物だけは本当に苦手である。この章の後半では怒涛のアニメ・ラノベのラッシュとなるので、著者はそれがいいたいだけだろう。

 たぶん間違いなく、この本は売れるとは思って書いてはいないはず。ただ自分の趣味を開陳するのが楽しいから書いたということが伝わってくる。この点は実にいいと思う。それで結論としては、著者はものすごい博学であることはわかったが、必読書であるかどうかは正直微妙だと思った。

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久々の新作

書評:かがみの孤城

 

 私にとって久々の長編小説。学校での居場所をなくした子供たちが、部屋の鏡を通って秘密の城に通うようになり交流を深める。この城が開かれているのは3月までで、閉城のときにはみんなの記憶が失われる。読み始めは、この陳腐なモチーフと若すぎる登場人物に感情移入できずに不安を覚えていたが、終幕が近くなるにつれて一気にスピード感が増し、最後のどんでん返しはさすがに作家の面目躍如だと思った。本屋大賞はあまり信用していないが、本作はまずまずだったと思う。

 

【以下ネタバレを含む】

 

 引きこもりの主人公(こころ)の成長がテーマかと思ったが、実のところは謎解き要素の強い小説だというところが斬新だった。しかも、本当に成長したのはこころではなかった。いわば、彼女は語り部としての役割にすぎないのかもしれない。いくつかの「トリック」について、時間軸がずれていることは小説に慣れた読者なら早い段階で気づくだろう。これはファンタジー要素だからいいとしても、アキ=喜多嶋には無理を感じる。はどうするんだ。いくら年をとってもさすがに現実世界で面談までしたらわかるぞ(・・・あれ、こいつアキじゃね?って)。あと、最後に例えばフウカが城に残ったら、救われるのはフウカだったのかなとか。一人でみんなを振り回しておいて、自分だけ優遇されすぎてないか。

 というか、こころの敵役の真田さんとその取り巻きはどこへ行った。なんかクラス替えで都合よくFOしたのか。「引きこもっていたけど、いつのまにかクラス替えがうまく行ってすっきり。イヤなやつもいなくなったし、学校も一人で通えそう。男の子があいさつしてくれてちょっとドキドキな新学期のヨカン☆」とか感じてしまうのはちょっと妄想がすぎるか。

タレーラン6

 タレーラン・シリーズは短編集というイメージがあったが、この本は長編である。藻川が倒れ、亡くなった奥さんの謎の一週間の失踪の意味を探る。静岡の画家の影が浮かび上がるが、単に不倫旅行というところで片付けてよいものか。舞台は写真に映った天橋立で驚きの急展開を迎える。

 ということで、ライトな読後感ではあるが、それなりの満足感はありました。しかし、ちょっと美星さんはアオヤマに気を持たせすぎですね。普通につきあえばいいのに。

 「その謎、上手に挽けました」は決め台詞だが、ちょっと今回は凝りすぎた気もした。犯人は珈琲だけにストレートだったかな。

掃除の日

 今日は論文に必要な生データを探して大掃除したが、予想どおり見つからない。コラボの難しさを実感。しかし、探し物以外はなんとたくさん見つかること!

twitter にも投稿したやつ
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 全く覚えていないけど、大学生活、それほど捨てたもんじゃなかったのかな。

酔っ払い本

 酒と世界史の関係を書いた本は割とよくあるが、酔っ払いに着目したのはあまりないかも。酒を戦略的に利用した将軍の話など興味深いエピソードが20ばかり詰まっている。もっとも、これが史実なのかはまた別の話で、ややゴシップめいた話が多いので本格的な歴史物を期待した人には少し肩透かしかもしれない。
 まあ、私も一番搾りで酔っ払いながらこれを書いているので、それくらいの温度で読むのが丁度いい本だろう。実はあと2章くらい残しているのだが、最初から最後まで酔っ払いの話なので意外と読み進めるのが辛い。

Twitter

 ツイッターに8年ぶりに顔を出したらすっかり様変わりしていた。生物系の人がプロアマ問わず増えていることにはびっくり。しかも観察のレベルが非常に高くなっている。喜ばしい反面、自分の進歩のなさにがっかりする思いでもある。こういうメンタリティーを持つ人はあまりSNSをやらない方が良いとされているので、期間限定と言うことで始めたいと思う。

 一方で操作系はsimplicity lost な面もあり、使いやすさとの天秤はいろいろ難しいとも感じた。 

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物部 2021.IX

ツルグレン成果

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ダニ類(oribatid and gamasid)。かわいい! 

 

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ワラジムシ、ヨコエビ、ザトウムシ、甲虫類、クモ、センチュウ、トビムシ、ハエの幼虫など。陸生貝は今回いなかった。

 

海岸林の腐植土はキャンパス構内より種数が豊富で面白い。

Tei, Konan, Kochi, JPN. 13 Sep 2021. soil