Predator-induced behaviour shifts and natural selection in field-experimental lizard populations
Losos JB, Schoener TW & Spiller DA.
Nature 432:505-508

 行動の進化は形態の進化よりも先に来るという説がある。つまり、生物が新しい場所に適応するときに、形態はその世代では変わらないが、行動は一世代のうちに変わることができる。だから、もし行動が一世代のうちに適応的に変わるのなら、形態にかかる選択圧は緩和され、形態の進化のスピードは遅くなる。実際に、いろいろな場所に住む同じ分類群の鳥を見てみると、形態には特に変化がないが、行動は住み場所に対して驚くほど適応している*1ダーウィンフィンチは形態も変わってるじゃないかって?知らん!)。

 Losos氏はアノールトカゲの進化生態学では有名な人らしい。この研究では、上の仮説を検証するためと言ってすごいことをやっている。カリブの12個の島にアノールトカゲをばらまき、その半分の島に捕食者のトカゲを入れてやって、導入直後と半年後のアノールトカゲの行動と形態を調査するというもの。こういうバラマキ実験に対しては、保全関係の人は苦虫をかみつぶすだろう。余談だが、かのE.O.Wilsonは、大陸から島への生物の移住を見るために、一つの島を殺虫剤で薫蒸してしまったことがあった。保全の人は卒倒するだろう。まあそれはともかく。
 結果は単純だ。捕食者の導入直後に、行動にはすぐに反応が見られた。捕食者のいる島では、アノールトカゲは捕食者の届かない高い木の枝に登るようになった。また、世代を重ねた半年後には樹上性が強くなった。半年後には、足の相対長(ジャンプ力と関係)や体サイズ(捕食者の飲み込みにくさと関連?)がコントロールの島より有意に大きくなっており、形態形質に自然選択がかかったことを示している。だからこの実験では、最初に述べたような仮説はサポートせず、行動と形態における適応は同時に進化したことになる。

 僕は仮説検証の部分よりも、むしろたった半年でトカゲの行動や形態が選択で変わってしまうという事実に単純に驚いた。同時に、ガラパゴスフィンチの嘴の長さが毎年変わるというGrant夫妻の話を思い出す*2

*1:FutuymaのEvolutionary Biology 3rd ed.isbn:0878931899 pp. 601-602

*2:「フィンチの嘴」isbn:4152079487