吉村さんの講義続き

 午前中は残念ながら起きられず。動的計画法の考え方を自分の研究を引き合いにだして論じたらしい。行動生態学では期待適応度の最適化という考え方をよく使うが、人間の行動の場合は「効用」の問題があって期待値では論じられない。たとえば100%の確率で一億円をもらえる選択肢Aと、50%ずつの確率で2億円の当たりとスカ(0円)が出る選択肢Bではどちらを選ぶか。期待値はどちらも同じ一億円だが、フツーの人は選択肢Aを選ぶだろうが、ビルゲーツはBを選ぶだろう。基本的には、昨日も講義にあった「収益のばらつきを減らす」という話に収束してくる。経済学では「効用関数」を考えるのだが、それを拡張して一般化したモデルについての紹介、だったようだ。

 午後の一こま目は変動環境stochastic environmentでの適応の話の実例。フロリダのカケスをやっているBrownとの共同研究。30年間のデータによると、ヒナの数の平均値は5匹が最善(このとき、次世代のturnoverがmaxになる)なのに、実際に子育てするのは3匹が普通。な〜んでか。
 子の数の平均値、というのは普通算術平均をとるのだが、これは環境が変化したときの反応の違いを考慮していない。たとえば、2匹育てた奴は環境が悪化しても1匹は残るが、5匹育てた奴は環境が悪化したときに0匹になる場合もあるとする。5匹育てた場合の適応度の「ばらつき」が大きいと、変動環境では2匹に負けるのだ。だから変動環境では、ばらつきを重視する幾何平均のほうが適切な指標だ。ただBrownのデータでは、幾何平均でもmaxは4匹。もう一匹ぶん最頻値を押し下げているものは何か、というdiscussion。
 他、変動環境のもとでの最適なパッチ選択(bet-hedging?)、変動環境での群集レベルの安定性の話。いずれも個体の適応度の最適化という考え方では誤った結論になりそうな話。

 午後の2こま目は性選択の話。性選択で極端な形質が進化すると変動環境では絶滅しやすい、という話。適応度というのはその時点その時点でのもので、将来の絶滅可能性について全く考慮していない、というコロンブスの卵的で面白かった。
 メカニズムとして、メスが目的の形質の指標として別の指標を用いる場合(クジャクならオスのbody sizeを選びたいのだが、指標として冠羽を用いる場合)、性選択の過程で、オスの冠羽の長さが急に延びてくる(アロメトリーの形が変わってくる)という説。なぜアロメトリーが変わるか、という部分はちょっと未消化。明日質問しようかな。

 講義は、「適応度の最大化」という基準が変動環境ではどうなるかという軸にそっており、脱線が多いにも関わらず一貫性があって聞きやすい。