論文紹介

The evolution of trade-offs: geographical variation in call duration and flight ability in the sand cricket, Gryllus firmus

Roff, D. A., Crnokrak, P. and Fairbairn, D. J.
J. Evol. Biol. (2003) 18: 744-753


 トレードオフ自体が進化するか、というRoffらしいマニアックな提起。しかしイントロを読んだ段階では、ちょっと僕の期待とはずれていたかもしれない。
 Gryllus属とはフタホシコオロギ()が所属している属。フタホシコオロギは熱帯性なため周年繁殖するので飼育しやすく、ペットの餌やモデル生物として広く使われている。ちなみに札幌の円山動物園の昆虫館でも見ることができる。
 話を戻すと、このコオロギの個体群には長翅型と短翅型が混ざっている。翅型は移動能力に関係していると考えられている。生理的ななんらかの物質量(彼はliabilityと呼ぶ)がある閾値を超えると長翅型になる。翅型はある程度は遺伝的に決まっており、人為選抜できることがわかっている。長翅型は飛翔筋が発達しているが、飛翔筋にエネルギー投資した結果として繁殖力(♀では産卵数、♂では交尾頻度、鳴き声の長さ)が落ちるらしい。
 彼らのモデルでは、長翅型の頻度に選抜をかけると、集団レベルで見ると翅型を決定する物質量を選抜していることになる。だから、長翅型の頻度への選抜がかかると、遺伝相関を通じて、長翅型の繁殖に関与する形質が下がる(trade-off)と予想される。
 この研究では多くの個体群を比較するという方法をとり、長翅型の多い個体群では♂の鳴き声の長さ(call duration)が短くなっている(=交尾能力が低い?)という仮説を検証した。また、個体群の間で、トレードオフの直線が変わっているかを調べた。

 ・・・ということらしいが、これ自体はトレードオフ自体の進化、というテーマから少しずれているような気がする。しかしおそらく私の読み込みが浅いためであろう。

 第三著者のFairbairnはRoffと同様量的遺伝学的なモデルを好み(?)、性的二型の進化を研究している。アメンボを材料とした以下の論文では、体サイズへの選抜を片方の性にかけた系統、両方の性にかけた系統、およびコントロール系統で、♂と♀の違い(Sexual Size Dimorphism, SSD)がどう変化していったか調べている。結果をLandeのモデルにあてはめてSSDがどう進化するかを予測していたりして面白かった。


Reeve, J. P. and D. J. Fairbairn, 1996. Sexual size dimorphism as a correlated response to selection on body size: An empirical test of the quantitative genetic model. Evolution 50: 1927-1938.